あらすじ
「読むだけで何もできぬ者を、気象官とは呼ばぬ」
二十歳のセリオは、その日、職を失いました。
この国の天気は〈|整気《せいき》〉で整えるもの。空へ注文を通せない彼は〈天気読み〉——読むだけの役立たず、と呼ばれていました。
けれど彼には、三歳のときからひとつだけ見えるものがあります。日が落ちきる直前、東の空に浮かぶ白い一行。半刻で消える、明日の空のことば。
気象台を追い出されたその足元へ、空から女の子が落ちてきました。
「いったーい! きゃはははは!」
吹き飛んだ石畳を「えいっ!」のひと言で元に戻し、雨を知らず、傘の差し方も知らない少女。名前を訊いても答えられず、そのままついてきます。
そして日没。少女が空を指さしました。「ねー、そこ、なんか光ってるよ?」
十七年、誰にも見えなかったものが、この子には見えている。
その一行には、こう書かれていました。
「快晴。正午、東門。空が落ちます」
雲ひとつない夕焼けでした。誰も信じません。それでもセリオは、石を投げられながら東門の露店を畳ませて回りました。
翌日の正午。空が落ちました。
——ですが、本当におかしかったのはその日の日没です。一日にひとつのはずの空に、二本目が浮かんだのです。しかもそれは、明日のことではありませんでした。
「晴。夜半より、月を停止します」