あらすじ
北方の辺境を守る騎士団長ヴィント・オルグレン(34)は、禁術研究の残骸から一人の青年を救い出す。名はレイ。かつて実験体として魔力を封じられ、感情も、言葉さえもほとんど失っていた。
保護という名目で城に引き取られたレイは、誰の目も見ず、誰にも触れさせず、ただ与えられた部屋の隅で膝を抱えて座っている。ヴィントは彼に何かを強要することをしない。ただ、毎日同じ時間に食事を運び、同じ場所に座り、レイが自分から近づいてくるのを待ち続ける。
季節が三度巡る頃、レイは少しずつ、言葉ではなく仕草で心を開き始める。差し出された手を、初めて自分から取った日。凍りついていた魔力が、微かに疼いた夜。二人の距離が縮まるほどに、レイを実験体として扱った組織の影が再び北方に伸びてくる——。
声を失った青年と、言葉より先に手を差し出す男の、静かで不器用な愛の物語。