あらすじ
滅びゆく下級人間界の泥沼から、宇宙の頂にある至高の玉座へ。
サルゴンは、血と飢え、そして耐え難い肉体的苦痛だけを手にして、その歩みを始める。
低位の人間界にある最も深く、最も苛烈な奴隷牢へと投げ込まれた彼は、生まれながらに完全な空白を持つ、魂なき異常存在だった。魔力はない。高貴な血筋による後ろ盾もない。そして、冷酷なシステムによって支配されたこの残酷な世界で、生きる権利すら与えられていない。すべてを操るのは、非情なる下級魔王だった。
星々を跨ぐ遥か彼方では、大帝国と腐敗した神々の神殿が壮大な権力闘争に興じている。
だが、サルゴンは泥の中で血を流していた。
彼は完全なる弱者だった。
悪魔の監督官たちが振るう鋸歯状の骨鞭に耐えながら、骨身を削る重労働を来る日も来る日も強いられる。生き延びるためだけに硫黄混じりの泥を吐き、次の一時間を迎えるためだけに必死に息をする。
世界を覆す魔法などない。
封印を解かれた星間巡航艦もない。
ましてや、即座に勝利を掴むような都合のいい力もない。
だが、彼の胸にぽっかりと空いた虚ろな空洞は、呪いではなかった。
それは、果てしなく飢え続ける底なしの虚無だった。
肉体に刻まれる一つ一つの苦痛に満ちた傷跡が、彼の冷徹な知性を、眠り続ける「未封印の論理」の扉をこじ開ける一歩へと近づけていく。
過去の悲劇によって心身ともに傷ついた、苦々しく百戦錬磨の傭兵カエレン。
サルゴンは、そんな彼と決して互いを信用しない、追い詰められた不可侵の休戦協定を結ぶことになる。
処刑を免れるために必要なのは、圧倒的な力ではない。
生まれ持った知恵。
生存本能。
そして、一瞬の油断すら許されない慎重さ。
それらだけを頼りに、彼は下界の怪物たちを相手に這いずり、戦い、そして生き抜いていかなければならない。
やがて彼は、自らの両親の正体、そして彼の空虚な器を創り出した原初の存在たちへと繋がる、古代の手掛かりを少しずつ掘り起こしていく。
これは、神々が定めた運命の軌道に従うことを拒絶した一人の主人公が、弱者から強者へと至る過程を、一歩ずつ描き出す壮大な記録。
Ether Sea――エーテル海を支配するその日が来るまで。
まず彼が成し遂げなければならないのは――
この「降臨」を、生き延びることだ。