あらすじ
アルケナ内海に面した自由港湾都市、リュメリア。
各地から商船が集まり、麦、葡萄酒、油、陶器、木材――あらゆる品と金が行き交うこの街で、十八歳のイリオ・セランは商人見習いとして働いていた。
荷を数え、値を覚え、客と駆け引きをする。
そんな代わり映えのしない毎日が、これからも続いていくはずだった。
だが、海の向こうで起きた小さな変化は、やがてリュメリアにも届き始める。
入港する穀物船が減り、麦の値が上がる。
港では怪しげな荷が動き、商人たちは噂を囁き、役人たちは目を光らせる。
その背後では、大陸の帝国と海を支配する国家、それぞれの思惑が絡み合っていた。
イリオは王でもなければ、将軍でもない。
剣を振るう英雄でもない。
ただ商売を覚え、家族を養い、この街で生きていきたいだけの若者だった。
だが戦争とは、戦場だけで起こるものではない。
麦の値段を変え、船の行き先を変え、商人の取引を変え、人々の日々の暮らしを変えていく。
やがてアルケナ内海全体を巻き込む大きな争いの中で、イリオもまた、自らの生き方を選ぶことになる。
これは英雄たちの戦争ではない。
港町に生きる一人の商人の目を通して描く、交易と政治、戦争と人々の暮らしの物語。
――リュメリアに、時代を変える風が吹き始める。