あらすじ

喪服は、三着あります。  麻が一着、毛が一着、絹が一着。十六で嫁いだ家のが麻、二十二で嫁いだ家のが毛、二十八で嫁いだ家のが絹。着たのは、十八と、二十五と、三十一のときでした。  イルムガルト・フォークト、三十三。三度嫁いで、三度とも喪主になった女です。  三度目の検分が閉じた日、申し込み状が三通、いっぺんに届きました。織元の当主、山手の男爵、港の商会主。三人とも善良で、三人とも悪気がなく――そして三人とも、最初に訊いたのは帳簿のことでした。  求められているのは、わたしではありません。わたしが三つの家から持ち帰ってしまった、中身のほうだったのです。  「呪いでは、ございません。わたしは、三つの家の帳簿を全部知っているだけです」  断って帰る道、丘の墓所で、石工の棟梁が三つの墓碑を洗っていました。日付の上に、細い筆で墨を置きながら、その人はひとりごとを言いました。  「――日が、違う」  十四年、正しいと信じて読んできた命日と、教会の記録が、一日ずれている。  そして四人目の申し込みが届きます。封蝋に、石の粉のついた指の跡がひとつ。  「四度目に嫁ぐ方には、三つの家の帳簿を全部お教えいたします」  三人の目の色が変わりました。ただ一人、その人だけが言いました。  「要らない」  「では、あなたは何が欲しいのですか」  ――相手の望みを訊いたのは、十七年で初めてでした。  十七年、わたしは訊かれた問いを帳面につけてきました。左の〈家のこと〉の欄は、もう三冊目です。右の〈わたしのこと〉の欄は、十七年で十九しかありません。  これは、その右の欄が動きだすまでの話です。

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カクヨム
カクヨム2026/08/09
  • 現在の作品三度嫁いで三度喪服を着ましたので、四度目のお申し込みはお断りいたします ~呪いではありません。三つの家の帳簿を全部知っているだけです~