あらすじ

世界が本来の音を失ってから、どれほどの時が過ぎただろうか。 文明が途絶え、かつての電子の海――インターネットという知識の広がりが完全に消え去ったいま、世界はただ乾いた風と、生存を賭けた奪い合いの濁声に満ちていた。 腹を満たすために他者を踏みにじる者。暴力と恐怖でかき集めた富を誇る者。文明の灰のうえで繰り広げられるのは、底なしの欲望と、なりふり構わぬ人間の醜悪さばかりだった。 だが、荒野のただ中にひっそりと佇むその場所だけは、違う時間が流れていた。 崩れかけた石造りの図書館。 幾重もの鍵で閉ざされた重い扉の向こうには、過去の人間たちが残した言葉、思想、そして愛の歴史が、静かに息をひそめて眠っていた。 ネットという拠り所を失った世界で、そこは人が人であるための「最後のかけら」を守る知識の砦であり、人間性を繋ぎ止める聖域だったのだ。 瓦礫の山からふいに響き渡る、不格好で傷だらけの旋律。 欲望に狂う世界に抗うように奏でられるその音色は、誰かを想い、誰かと生きようとする小さな愛の歌だ。 これは、すべてが荒廃した世界で、私たちが人間であり続けるために紡いだ、泥臭くも美しいカンタービレ(歌)。

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小説を読もう2026/08/09
  • 現在の作品荒廃のカンタービレ