あらすじ
北辰電鉄文書管理室勤務、槙原頼子。
廃線に伴う文書処分の作業中、彼女は昭和三十年のキロ程表に、一枚だけ紙質の違う頁を見つける。
そこに「信栄」という駅名があった。
前後の版には存在しない。現行データベースにもない。地形図にも、開業広告にも、社員名簿にもない。
だが貨物受領伝票の控には、四十六年分の受領印が残っていた。
二階堂。
その名は、社員名簿のどこにもない。
昭和二十年代の印影は輪郭が鮮明で、枠の中央に正確に捺してある。三十年代、「堂」の一画が欠け始める。四十年代、朱は薄れ、位置は枠からずれ、最後の数枚は二重に捺し直されている。
誰も殺されていない。誰も隠していない。悪人は一人も出てこない。
あるのは、期限を持たなかった手続きと、分類できなかった書類と、それを「その他」に入れた運用だけである。
処分まで、あと一二〇日。
文書だけで解ける物語の最後で、文書の外側が、一箇所だけ口を開ける。