あらすじ
十九の誕生日に死ぬ、と書かれていました。
四十年、暦の狂いを一度も外さなかった先代|暦司《こよみつかさ》が書き残した〈末書き〉。その三十七件目に、わたしの家の名があります。
――ヴェルフ伯の娘 十九の年の霜の朔に 死す。
だから屋敷は、ずっと優しかったのです。父も、乳母も、使用人たちも。十九年、ひと日も欠かさず。義母は、この家に入ってからの十二年を。
そして今日は、その優しさがいちばん厚くなる日でした。
――日が暮れ、鐘が六つ鳴って、わたしは死にませんでした。
最初に口をひらいたのは義母でした。
「……それで、明日からのご予定は?」
誰も、わたしが二十歳になった先を考えていませんでした。持参金は一度も積まれていません。婚約書には期限が切ってあります。教会の名簿のわたしの欄は、十九で罫が終わっています。部屋の家具は、葬いの日に切れる約束で借りたものでした。
十九年ぶんの優しさは、いなくなる人への前払いでした。明日からは、それが全部「貸し」になります。
ただ一人、婚約者のヴィートだけが違いました。子供のころからずっと無礼で、敬語も使わず、いつも先の話ばかりして。十三の年から数えて七つの贈り物は、大きすぎる手袋も、一度も旅に出ていない旅行鞄も、引き終わるのに十年かかると言われた辞書も、全部わたしが死ぬはずだった日より先で使う物でした。
「で、来年は?」
この六文字を、この家で口にするのは、昔からこの人だけです。
予定のない人生を、明日から一日ずつ作ります。教会の名簿に罫を引き足してもらうため、|暦司《こよみつかさ》の塔へ通いはじめます。塔にいたのは、素足で菓子の粉をこぼしている、わたしと同い年の女の子でした。
「予言じゃないよ。あれ、勘定だもん」
――ところで。写しを数えると、四十件しかございません。
原本は、四十一本の筒に納まっているはずなのですが。