あらすじ

十二年前、地方空港の滑走路の下に迷宮が現れた。 計器を狂わせる〈圏乱〉で空は閉じ、空港は廃港。管制塔に残って十二年、跡地の空を捌いてきた塔野徹(四十九歳)も、業務の自動化とともに職を失う。 二十四年、無事故。その経歴は、職業安定所の窓口で「何にお使いになれますか?」と首を傾げられた。 眠れない元夜勤の体で始めたのは、深夜配信「帰り道案内」。終電を逃した酔客を、声だけで家まで送る小さな番組である。同接十六人。 ある梅雨の晩、コメント欄に一行が流れる。 「琴浜の第八環からです。冗談抜きで、はぐれました。電池が三割です」 迷宮の通信は、深夜だけ〈夜窓〉が開く。ただし通るのはネットのデータだけ。緊急通報は繋がらず、会社の夜間窓口は録音案内、救助は朝まで来ない。 報せることはできるのに、応える声が、どこにもいない時間だった。 「まず、遭難を宣言してください。……はい。あなたは今夜、私の第一便です」 地図は知らない。だが、迷った人間を家に帰す手順なら、二十四年ぶん知っている。 現在地の固定。視認の復唱。電池と水の残量管理。手書きの短冊。そして出口の灯を確認したら、こう言うのだ――「第一便、着陸です」。 深夜にしか開かない生命線に、夜勤明けの看護師が、始発待ちのタクシー運転手が、古参の探索者が集まりはじめる。 無資格の誘導だと会社は警告し、有料の先導屋は「山は声じゃ守れん」と凄む。それでも今夜も、窓は開く。 管制圏を失った男が、地の底に新しい管制圏を作るまでの物語。

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小説を読もう2026/08/09
  • 現在の作品クビになった四十九歳の管制官、深夜の「帰り道案内」配信を始める ~迷宮で遭難したら、まず遭難を宣言してください。あなたは今夜、私の第一便です~