あらすじ
三年前、両親の馬車が峠から落ちました。
出発を一日遅らせてほしいと願ったのは、わたくしですの。
その晩、兄は――若くして王になってしまったあの人は、わたくしにたった一言、「もういい」と仰いましたわ。
以来わたくしたちは、口をきいておりません。宮廷の噂どおり、たいそう仲の悪い兄妹ですのよ。
そんなわたくしに、ただひとり「あなたは悪くない」と言ってくださる方がおりました。平民出の宮廷書記官、ノエル・ヴァイト様。
けれどそのお話をした途端、お兄様は近衛を三十人も引き連れて茶会に踏み込み、王女への面会申請には添付書類を三十七通と定め、舞踏会の曲まで変えさせましたのよ。
……よろしくてよ。そこまでわたくしがお邪魔なら。
身分違いの恋を反対されましたので、わたくし、お兄様の妹はやめますわ。
――ええ。この時わたくしは、まだ何ひとつ存じませんでしたの。
あの夜のお兄様の「もういい」に、続きの言葉があったことも。