あらすじ
急げ。でも、走るな。
2014年。
午後六時、人であふれる名鉄名古屋駅。娘への手土産を持つ59歳の父・黒田義明と、午後7時の重要会議へ向かう食品会社部長・佐伯圭太は、よく似た黒いバッグを取り違えてしまう。
父の手に渡ったのは、娘が書いたとは知らない新商品の企画書。
部長の手に渡ったのは、名古屋駅で親しまれる、ひよこ形の生菓子「ぴよりん」4羽だった。
ぴよりんは愛らしい見た目とは裏腹に、揺れや傾きに弱い、とても繊細なスイーツ。会議には急がなければならない。だが、走れば崩れる。
その頃、父は他人の企画書だと思い込み、曖昧な言葉へ容赦なく赤ペンを入れていた。やがて見つけた制作者の名前は――自分の娘、黒田美咲。
スマートフォンも、位置情報も、既読表示もある。
それでも父と娘は会えず、必要なものだけが届かない。
名古屋駅ですれ違う10人の小さな選択が、知らない誰かの人生を少しずつ動かしていく。
バッグは戻るのか。企画書は会議に間に合うのか。
そして、4羽のぴよりんは無事なのか。
笑って、焦って、最後に胸が温かくなる。
「つながっているのに届かない」時代を描く、名古屋駅発の群像コメディー。
ぴよりんとは
名古屋駅で販売されている、ひよこをかたどった繊細な生菓子。本作では、その崩れやすさが「急がなければならないのに走れない」という、事件最大の時間制限になります。