あらすじ

小林若菜、三十四歳。中堅設備会社の総務部で主任を務める彼女は、入社以来ずっと「若菜ちゃん」と呼ばれてきた。親しみのある呼び名だが、いつまでも若い女の子扱いされることに、わずかな違和感も抱いている。 創立五十周年の社史編纂プロジェクトで、若菜は経営企画室の若菜俊夫と組む。名字が若菜で名前が俊夫。昭和的な礼儀を守る四十二歳の堅物で、社内では「若菜氏」と呼ばれるようになる。 「若菜さん」と呼べば二人が同時に返事をし、電話やメール、弁当の注文まで取り違えられる。周囲は二人を面白がるが、俊夫だけは彼女をきちんと「小林さん」と呼ぶ。古い社内報や写真に残された一人ひとりの名前を丁寧に扱う姿に、若菜は惹かれていく。 俊夫も若菜へ好意を抱くが、相手への負担を恐れ、食事に誘うだけでも「業務上の必要性はありません」と書くほど不器用だった。噂が広がると、彼は若菜を守るため担当を外れようとする。若菜は腹を立て、自分の言葉で告白する。 「若菜ちゃんが若菜氏を好きなのではありません。小林若菜が、若菜俊夫さんを好きなんです」 交際後も、俊夫は手をつなぐにもキスをするにも許可を取る。一方、社内では二人の恋が言葉遊びとして消費され、ついには「結婚したら若菜若菜になる」と笑われる。若菜は傷つき、場を収めようとした俊夫とも衝突する。 数日後、俊夫は「私が小林になることもできます」と告げる。そして初めて彼女を「若菜ちゃん」と呼び、「これからも自分の名前を好きでいられるほうを選んでください」と伝える。 社史が完成し、二人の名前も編集担当として残る。式典の帰り、俊夫は正式に結婚を申し込む。 「はい。若菜若菜になってもいいです。面白い名前になるためではなく、俊夫さんと同じ名字になりたいんです」 名前を笑われる物語だったはずが、やがて、自分で名前と人生を選び直す恋の物語へ変わっていく。

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エブリスタ
エブリスタ2026/08/03
  • 現在の作品若菜氏を好きになってしまった若菜ちゃん