あらすじ
天正十年、本能寺。
明智光秀は織田信長を討った。
後世、「天下を奪おうとして失敗した謀反人」と呼ばれる男は、本当に天下を欲していたのか。
十二年前――金ヶ崎の退き口。死地を共にした明智光秀と木下藤吉郎秀吉は、戦乱の果てにある新しい国について語り合っていた。
「どちらかが火を消し、どちらかが国を作る」
それは謀反の約束ではなかった。二人が交わしたのは、武力だけでは国は治まらないという認識と、いつか戦のない世を作るという、遠い暁への誓いだった。
その後、二人は表向き距離を置きながら、何気ない書状の行間に、ただ一つのことだけを確かめ続ける。
――あの夜を、まだ忘れていないか。
そして本能寺の変。
光秀は信長を討つ。秀吉には何も知らせないまま。
だが秀吉は、光秀という男を読むことで中国から駆け戻る。
山崎。
光秀は勝つための道を自ら狭めながら、それでも戦場では本気で秀吉を討とうとする。秀吉もまた、光秀を討つことでしか次の時代へ進めない。
勝者となった秀吉は、歴史を作る側へ。
敗者となった光秀は、名を捨て、歴史の外へ。
やがて二人は、権力の頂点と名もなき民の暮らしという、正反対の場所から同じ国を見つめ始める。
本能寺の変を、「怨恨」でも「天下取り」でもなく、二人の男がそれぞれの方法で戦国を終わらせようとした物語として描く歴史長編。
これは史実の空白に、一つの可能性を置く物語。
勝ったのは秀吉だった。
だが、本当に先へ進んだのは、どちらだったのか。