あらすじ
寄合の真ん中で「膠を薄めて納めたのは巴だ」と義弟に名指しされました——濡れ衣でございます。座に置かれた墨の底には、下の段の簀が残す横筋が走っております。わたくしが上の段へ置くときにつける麻糸の跡は、どこにもありません。
言い返しません。誰が薄めたのかも申しません。ただ、墨を割って断面をお見せするだけ。上の段は端から芯まで同じ黒で詰まり、下の段は表だけ固くて芯が甘いのです。
確かめずに名を挙げた家は、納め先から順に断られていきました。同じ煤を買っても、棚は自分で風を読みません。町の炊きを任されたわたくしのもとへ「また炊いてくれ」と戸口に立った義弟へ、同じ一句を静かにお返しするお話。