あらすじ
この町には、誕生日がない。
王都暦局の三級暦務官ノアが赴任した辺境では、曜日も休日も、給料日も葬送の日も失われていた。
住民たちは昨日と明日を曖昧にしながら働き続け、子どもたちは自分が何歳なのかさえ知らない。
町のパン屋を切り盛りするミラは、王都から来た役人を信用していなかった。
かつて彼女の母親もまた、記録に存在しない「十三日」に消えている。
そんな町で、ノアは一人の少女と出会う。
「私、生まれた日がないんだって」
暦師の仕事は、時間を操ることではない。
人々の証言を聞き、残された品を調べ、忘れられた出来事に正しい日付を与えること。
ノアが少女の誕生日を見つけた日、何十年も止まっていた町の大時計が動き始める。
市場の日が生まれ、職人に給料日が戻り、死者を見送る日が定められる。
一日ずつ「今日」を取り戻すたび、止まっていた町の暮らしが再び動き出す。
しかし、失われた日付を調べるノアたちは、やがて気づいてしまう。
この町から暦が消えたのは、事故でも災害でもない。
誰かが、消したのだ。
なぜ中央暦院は、人々の誕生日や歴史を管理するのか。
ミラの母は、存在しない日にどこへ消えたのか。
そしてノア自身の出生記録に残された、空白の意味とは――。
これは、地味な役人と町の人々が、奪われた一年と、自分たちの人生を取り戻していく物語。