あらすじ
「おまえの鼻は用済みだ」と、七年ぶん香料を調合してきたわたくしの名が、調合の請けから消されました。客の好みを覚え、店を回してきたのはわたくしです。
言い返しません。ただ、七年ずっと見ていた一点だけを覚えております。義兄は目方を量るとき、客へ話しかけるあの一拍で、角の欠けた分銅をひとつ台へ戻し忘れるのです。
商会の検分の席で、わたくしが申し上げるのは一言だけ。告発もいたしませんし、帳面も突きつけません。やがて手口を真似た番頭が揃った分銅の日に自滅し、義兄が「また調合してくれ」と戻ってきたとき、同じ一句を静かにお返しするお話。