あらすじ
百合小説を書いている。
情景は書ける。
雨粒も、西日も、蝋の色も、いくらでも書ける。
――問題は、人間だった。
「微笑んだ」「頬を赤らめた」。
そんな記号ばかりになってしまう人物描写に頭を抱えていた私の隣から、二人の女性の会話が聞こえてきた。
濡れた髪を拭く。
三秒だけ黙る。
相手の手が冷たいことを覚えている。
しかも、私との間には衝立がある。
顔は見えない。
……生資料ですよお!
百合欠乏症の作家志望は、隣席の会話を勝手に観察し、勝手に解釈し、ついには見てもいない光景を美文で捏造し始める。
けれど衝立の向こう側へ行ったとき、彼女は知る。
妄想より、生の方がずっと細かい。
百合を書く女が、本物の百合から「人間の描き方」を盗んで帰る、二話完結の観察系百合ラブコメ。