あらすじ
海外旅行から帰る飛行機で眠った会社員・相馬徹、三十九歳。
目を覚ますと、そこはいつもの羽田空港だった。
ただ一つだけ違った。
左腕に、どうやっても外れない黒い時計がついていた。
翌日、いつものように会社で八時間働く。
メールを返し、会議に出て、資料を作り、取引先と話す。
午後五時。
世界では八時間が過ぎている。
だが、左腕の時計に刻まれていたのは――
【01:13:26】
「八時間ずっとここにいたぞ」
そう言う徹に、後輩は答えた。
八時間働いたはずなのに、徹が本当に「生きた時間」は、
一時間十三分しかなかった。
この世界では、誰もが二つの時間を持っていた。
世界に流れる時間と。
自分が、本当に生きた時間。
五十三分のショート動画は、三分四十一秒。
四時間半の酒は、二十八分。
ところが、十一時間の一人旅は十三時間になった。
だったら答えは簡単だ。
仕事なんかせず、美味いものを食べ、旅をして、楽しいことだけをすればいい。
――徹は、そう思った。
けれど、人生はそんなに単純ではなかった。
では、人はどんな時、本当に「生きている」のだろう。
これは、人生の目標を持てなかった一人の会社員が、
自分の時間を取り戻すまでの物語。