あらすじ
十二歳の春、リリアはライラックの咲く庭で、ひとりの少年と出会った。
喧嘩っ早く、誰にも心を開かない子爵家の少年カイル。けれど彼が傷ついた小鳥に触れる手は、驚くほど優しかった。
やがて二人は、学校の片隅にある中庭のベンチで、時折一緒に座るようになる。交わす言葉はほんのわずか。約束もしない。淡すぎる想いを言葉にすることもない。ただ隣にいるだけの、静かで大切な時間。
けれど夏の終わり、カイルは家の事情により遠い土地へ去ることになる。
好きだと言えないまま。
触れることさえないまま。
二人の短い春は終わった。
ライラックの香りとともに胸の奥に残り続ける、淡く透明な初恋の物語。