あらすじ
タイムトラベルSF×歴史改変ミステリー×ロードムービー。
初恋の人に裏切られたマッドサイエンティストが、過去で出会った仲間たちと「タイムマシンの壊しかた」を探す物語。
【物語】
中学生の禾少一は、恋人を殺された同級生・午ヰ彩月から「タイムマシンを作ってほしい」と頼まれる。
それから二十年。
青春も人間関係もすべて研究に費やし、ついにタイムマシンを完成させた禾だったが、午ヰは約束そのものを忘れていた。
失われた青春を取り戻すため、禾は二十年前へ向かう。
だが、そこで目撃したのは、未来の自分が午ヰの恋人を刺し殺す瞬間と、中学生の自分が何者かに射殺される瞬間だった。
さらに、辿り着いた過去は禾の記憶と異なっていた。
アインシュタインは「奇跡の年」を迎えることなく歴史の表舞台から消え、その功績は複数の研究者へ分配されている。
すべての論文に関与していたのは、正体不明の人物「Eto Itomi」。
彼女は百年前のインタビューで、こう答えていた。
「私は、ずっと考えています。タイムマシンの壊しかたを」
【主要人物】
■禾少一(いなぎ・しょういち)
タイムマシンを完成させた物理学者。中学生時代から二十年を研究に費やした。
極端に論理的で、人間への共感や倫理よりも知的好奇心を優先する。
自分自身の死さえ「興味深い実験結果」として受け入れる、生粋のマッドサイエンティスト。
同級生・午ヰへの初恋を恋心の動機だと思い込んでいたが、本当に愛していたのは、タイムマシンを追い続ける自分の青春だった。
誰も信用したことがなく、物語開始時点では「僕」だけで問題を解決しようとする。
■日寺遥日(ひでら・はるひ)
改変された過去で禾と出会う女子中学生。
裕福な家庭に生まれた一方、両親から虐待と過度な教育を受けている。
自分が生まれたことそのものを否定しており、禾に「過去へ行って両親を殺してほしい」と依頼する。
死や暴力に冷めた態度を取るが、本来は好奇心が強く、無知を恥じずに学ぶことを禾から教わっていく。
単独行動を当然とする禾に、「僕ではなく僕ら」と歩み寄る存在。
■ジョン・W・タイター
禾に懸けられた賞金を狙って現れた、フリーの中年傭兵。
光を極端に眩しく感じる視覚障害を抱えている。
軽薄で冗談好きだが、戦闘経験と裏社会の知識は豊富。病気の母を抱え、金を必要としている。
この世界では「タイムトラベラーのジョン・タイター」は存在せず、本人もただの同姓同名。
しかし、禾が本物のタイムトラベラーであることに賭け、報酬として宝くじの当選番号を要求して仲間になる。
■午ヰ彩月(うまい・さつき)
中学時代の禾にタイムマシン製作を依頼した同級生。
恋人・八刀周之介を殺人事件で失い、その死をなかったことにするため禾を頼った。
しかし二十年後、同窓会で禾と再会した際、その約束を忘れてしまっていた。
彩月の何気ない依頼が、複数の時代と歴史を巻き込むすべての始まりとなる。
■八刀周之介(やがたな・しゅうのすけ)
午ヰ彩月の恋人。
中学生の時、通り魔によって殺害される。
彼の死が、タイムマシン開発の発端となる。
■糸己エト(いとみ・エト)/Eto Itomi
高校時代、禾の隣の席にいた留学生。
禾へ好意を寄せていたが、その存在すらまともに認識されなかった。
改変された科学史に現れる正体不明の研究者「Eto Itomi」と同じ名前を持つ。
アインシュタインの功績を別人へ与え、未来を大きく遅らせることなく、アインシュタインという個人だけを歴史から消した疑いがある。
【舞台/タイムマシンについて】
主な舞台は、二十年前の東京・多摩川沿いの町と、巨大な人工衛星の落下によって封鎖された茨城県。
禾のタイムマシンは人間だけを別の時空間座標へ転送する巨大な固定装置であり、移動先へ機体を持ち込むことはできない。
帰還するには、その時代の材料でタイムマシンを再建し、原子力発電級の莫大なエネルギーを確保する必要がある。
禾、日寺、ジョンの三人は、茨城で「原子力という動力源=逆行する太陽」を盗み、タイムマシンを再起動するため北へ向かう。
その後の目的地は、一九〇五年のヨーロッパ。
アインシュタインを歴史から消した人物を追う旅は、やがて午ヰの恋人・八刀周之介が殺された真相を暴き、そして時間を越えて殺し合う無数の「禾少一」へとつながっていく。
壊すべきものは、愛か。タイムマシンか。
それとも、タイムマシンを愛してしまった自分自身か。
失われた青春を血で染め直す、愛と狂気の時間旅行。