あらすじ
「――君との婚約は破棄する。聖女の資格もない女に、王家は不要だ」
煌びやかな社交界の中央で、王太子ジェラルドは高らかに宣言した。断罪の視線を一身に浴びる湖水公爵令嬢リーゼロッテ。しかし彼女は誰よりも冷静だった。
(あ、これ。前世で読んだ婚約破棄テンプレのやつだ)
前世は日本の水質分析技師。国中の病人を救ってきた万能薬『月銀水』は、聖女の祈りの奇跡などではなく、満月の夜に氷のような湖へ通い、水温・月齢・菌床・毒性の中和を徹底管理した、彼女の科学的品質管理の成果だった。
それを誰も知らない。無給・無休で命を懸けてきた日々を「資格なし」と切り捨てられた彼女は、優雅に一礼して告げる。
「では、月銀水の献上契約――すべて、返上させていただきますわ」
この国と結ばれた契約は、公爵家でも湖水領でもなく『聖女リーゼロッテ個人』とのもの。婚約破棄は、すなわち契約の終焉。
(さようなら、私を当然のように使い潰した国。二度と、月銀水は渡しません)
聖女の献上が途絶えたとき、国は初めて彼女の価値を思い知る。搾取された聖女は、もういない。ここにいるのは、自らの価値を自らの手で売る経営者――。
頭を下げに来た王家を、彼女はどう迎えるのか。痛快な逆転劇、ここに開幕。短編・完結。