あらすじ

「君は妻として、十分に働いてくれた。――もう、好きにしていい」 結婚三十七年目の記念日に離縁された侯爵夫人エレオノール、五十四歳。 慰謝料は辞退。持って出たのは、旅着と、古い文箱がひとつ。 中身は三十七枚の紙片。婚礼前夜に一枚、あとは毎年の結婚記念日の夜に一枚ずつ―― 叶えたいことを先延ばしにするたび書きためた「いつか」である。 夜祭で、朝まで踊る。 湖で泳ぐ。 誰もわたしの名を知らない宿で眠る。 ――朝寝坊。 「お母様、こんなことも、できませんでしたの?」 「できなかったのよ。不思議ね」 呆れる娘に、母は荷造りの手を止めない。 「五十四歳で?」 「五十四歳だから、急ぐのよ」 道連れは、同い年の堅物な元近衛隊長。 寡黙で、律儀で、なぜか紙片を一枚使うたび、次の旅支度まで整えている。 膝は鳴る。老眼も進む。だから何だと言うのです? 一枚燃やすたび、置いてきた屋敷は勝手に軋み、世間の評判は勝手に逆転していく。 残る一枚だけは、箱の底に裏返し。 その表には、十七歳の字で――『もう一度、恋をする』。

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カクヨム
カクヨム2026/07/14
  • 現在の作品五十四歳で離縁されましたので、三十七枚の「いつか」を使い切ります ~最後の一枚は、もう一度恋をすること~