あらすじ
寺の坂下にある小さな飯屋「ほどき膳」は、縁を切りたい者が訪れる不思議な店だった。女将見習いの千代は、客が何を頼み、何を食べ、何を残すかを見て、その人が本当に抱えている結び目を見抜いていく。
夫との縁を切りたいと訪れた若い女は、実は亡き姉への罪悪感に縛られていた。亡き妻との縁切りを願う老商人は、妻が死んだことを受け入れられず、煮魚を前にして毎日箸を取れずにいた。狐火を恐れる油屋は、かつて濡れ衣を着せて追い出した奉公人の影を背負っていた。祝言前の娘は、嫁ぎたい相手との縁を誰かに切られそうだと訴えるが、祝言膳の毒騒ぎは、毒ではなく寂しさが仕掛けた偽りだった。
店を調べに来た寺社方手附の青柳惣一郎は、千代の推理を疑いながらも、やがて外を調べる役目を担い、千代とともに事件をほどく相棒となる。だが青柳には秘密があった。彼の母はかつてこの店に入り、家へ戻らなかった。青柳は、母を奪った店として「ほどき膳」を疑っていたのだ。
やがて明らかになるのは、この店がもとは縁を切るためではなく、帰れば死ぬ者を逃がすための場所だったという事実だった。千代の母は、逃げた者を連れ戻す側に回った夫との縁を切るため、この店に残った。千代がしてきたことも、縁を断つことではなく、客自身にも見えなくなった結び目を膳の上に現すことだった。
青柳は母の真実を知り、店を裁くのではなく、千代の側に立つことを選ぶ。店は続く。縁切り膳屋ではなく、縁をほどく膳屋として。最後に千代は、青柳に初めて客ではない朝餉を出す。白粥、焼き魚、青菜、豆腐の味噌汁。青柳が「これは、どんな縁を切る膳だ」と問うと、千代は「切らないための膳です」と答える。