あらすじ
捨てられる循環と、土の補助輪
マンションのベンチについてまとめた一枚の観察メモは、管理組合の理事会へ届けられた。
すぐに日除けの設置が決まったわけではない。
それでも、管理会社へ現地確認と概算を求め、検討を続けることが決まった。
理央の問いは、初めて現実の意思決定を一歩だけ動かした。
だが、街から失われている循環は、空の冷却機能だけではない。
次の入口は、理央の台所にあった。
ある朝、生ごみの水分が袋の底から漏れ出す。
野菜くず、果物の皮、茶殻、卵の殻。
もともとは土から生まれたものが、都市では他のごみと混ぜられ、生活圏の外へ運ばれていく。
しかし、すべてを堆肥にすれば解決するわけではない。
におい。
害虫。
異物。
衛生。
管理する人。
完成した堆肥の品質。
そして、それを実際に使う場所。
ごみ箱から別の容器へ移しただけでは、循環とは呼べない。
理央はまず、自分が何を捨てているのかを知るため、七日間の家庭内有機物観測を始める。
食べられたのに捨てたもの。
調理によって必ず出るもの。
水分の多いもの。
土へ戻せる可能性のあるもの。
空の補助輪に続き、理央が考え始めたのは「土の補助輪」。
都市で切断された有機物の流れを、安全に、無理なく、管理できる範囲で土へ戻すことはできるのか。
ゴミ箱の中から始まった小さな観測は、やがて家庭、マンション、地域の土、農地、食べ物を結ぶ新たな循環へつながっていく。