あらすじ
「言葉を正すことは、この世の『ほころび』を繕うこと――」
日本神話や民俗学の知識を少しだけ齧っている、フリーランスの校正者・蓮見誠一郎。
彼は、赤ペンと締め切りに追われる、誰にも邪魔されない静かな休日を何よりも愛している。
はずだった。
「蓮見さん、ちょっと相談があって。……いいですか?」
「……八木さん。君、また鍵も持っていないのに、どうしてこうもタイミングよく訪ねてくるのかな」
ある事件をきっかけに、蓮見の平穏は終わりを告げた。
好奇心旺盛なデザイナー・八木志乃が、休日になると決まって蓮見の部屋を訪れるようになったからだ。
彼女は、特別な霊感を持っているわけではない。ただ、デザインの参考にと赴いた場所や、ふと立ち入った古い場所で、無自覚に「境界の薄い場所」へ足を踏み入れてしまう。その結果、彼女自身やその関係者の周囲で、不可解な異象や怪異が頻発するようになる。
志乃が持ち込むのは、仕事の相談を装った「現代の禁忌」の数々。
蓮見は渋々ながらも、頭の片隅にあるうろ覚えの知識と校正者としての執念で、その不穏な「誤り」を正そうと試みる。
「お願いですから、今度は何事もなく一日を終えさせてください」
「大丈夫ですって! 蓮見さんの知識があれば、どんな怪異だって校正できます!」
言葉の力で現世の「ほころび」を繕う、不釣り合いな二人の境界迷宮譚。
今日もまた、志乃と共に、不穏な日常が幕を開ける。