あらすじ
古い映画やホームムービーを修復する映像修復士・篠宮澪のもとに、山中の旧家に暮らす老女、五香志津子から奇妙な依頼が舞い込む。
昭和初期から平成まで、五香家の日常を撮影した九十二本のフィルム。
誕生日、運動会、正月、結婚式、葬儀など。
そこに記録されていたのは、どこにでもある家族の思い出のはずだった。
だが修復作業を始めた澪は、映像の中に説明のつかない異変を発見する。
フィルムが一瞬だけ黒くなるたび、家族のうち一人の顔が別人に変わっている。
服装も会話も、風に揺れる木々さえ途切れていない。
変わったのは、その人間だけ。
それでも映像の中の家族は、誰一人として異変に気づかない。
調査を進める澪は、五香家の歴代の家族に奇妙な共通点があることを知る。
どの時代にも必ず、父、母、長男、長女、そして幼くして亡くなる子供がいる。
顔も名前も違うはずの彼らは、同じ仕草をし、同じ場所に座り、何十年もの時を隔てて同じ言葉を繰り返していた。
さらに修復が進むにつれ、異変はフィルムの外にも現れ始める。
助手の利き手が変わる。
昨日まで嫌っていたものを好むようになる。
澪の母親の死因が、思い出すたびに違っている。
そして一本の古いフィルムの中に、五香家とは無関係なはずの少女が食卓を共にしていた。
家族の誰からも見られていないその少女は、カメラだけを見つめ、ゆっくりと唇を動かす。
――それ、私の顔。
最後に残された九十二本目のフィルムには、ただ一つの題名が記されていた。
「家族は五人である」
過去を記録したはずのフィルムが映し出すものは、失われた家族の記憶か。
それとも、これから作られる新しい家族の姿なのか。
まばたきをした、その一瞬……