あらすじ
風に揺られて、虹色の球体が空へと溶けていく。
文明の失われた緑深い地上で、伊奈帆が作ったのは、なんの変哲もないしゃぼんだまだった。
「なんなの、これ」
警戒を隠さない少女・トモリはぶっきらぼうに呟く。
けれど、隣にいる少女・ココロは、目を輝かせてそれを追いかけた。
はしゃぐココロの姿に、トモリの瞳も、どこか楽しそうに和らいでいく。
少し得意げな伊奈帆と、呆れながらも目を細めるトモリ。
それは、失われた地上に灯った、ささやかな日常の光だった。
伊奈帆は、2000年前の地下都市から、たった一人でこの時代へ飛ばされてきた。
空も風も知らなかった少年が失ったのは、家族も、友人も、帰る場所のすべて。
残されたのは、古びた白衣と旧文明の知識だけだった。
出会ったトモリは、危険な森を生き抜く術を持っていた。
けれど、自分たちの集落の外の世界を、何も知らない。
地上を知らない少年と、世界を知らない少女。
互いに足りないものを埋めるように、二人はちぐはぐな世界を、時間と文明を、もう一度つなぎ合わせるために歩き出す。
ココロたちが、もう一度笑って暮らせる当たり前の日常を取り戻すための、静かな静かな旅の始まり。