あらすじ
地上を覗くのが好きだった。
高天原(たかまがはら)の宮殿の縁から、毎日。
山が白くなる季節。川が太くなる季節。森が茶色くなる季節。
全部見た。全部——分からなかった。
「降りて、自分で見つけなさい」
祖母アマテラスに三種の神器を渡されて、天を降りた。
剣は光らなかった。
道は境界の神に塞がれていた。
地上は重かった。水が重い。空気が重い。飯がうまい。
夕暮れの丘で——花びらが舞った。
振り返った女と目が合った。名前を聞こうとした。
——言葉が出なかった。
天の者が地を踏む。
剣で道を開いた男が、花の前では声が出ない。
サルタビコに啖呵を切った口が、コノハナサクヤヒメの前では四つしか言葉が出ない。
「ああ」「二日目だ」「天から来た」「ここに来る」
——四つ。情けない。
天孫ニニギの一人称で描く、
日本神話最大のラブストーリーと、地に根を張るまでの物語。
古事記・天孫降臨編〜木花之佐久夜毘売編。
日本神話シリーズ第三作。