あらすじ
「四百人には四百の家庭があります」
役員会でそう吠えた三分後、人事部長・剛田大悟(五十二歳)は過労で倒れ、目を覚ますと魔王デルガドールに転生していた。引き継ぎ資料を見て絶句する。給与なし、休暇なし、退職は原則死亡時のみ、懲罰は基本的に処刑。「これは軍じゃない。倒産寸前の会社だ」――復活した魔王が最初に発布したのは進軍命令ではなく、週休二日と対価の支払いを定めた「魔界労働基本法」だった。
三年後。ホワイト化した魔王城の門前に、嵐の夜、敵国の白銀将軍アルヴィナが現れる。率いるは、国に見捨てられた部下三千人。
「この首を差し上げます。ですからどうか――部下たちに、飯と寝床を」
断る。うちでは首は取り扱っていない。処刑は廃止だ。代わりに三千十七名、全員まとめて中途採用する。
文化摩擦で皿が天井に張りつく混成部隊。始末書を一人で抱え込む元将軍への、働き方改革。初めての有給休暇と、湖の水切り勝負。そして王都から届く、妹の処刑布告――。
魔王の武器は剣でも魔法でもない。面接と、求人票だ。俸給未払い八ヶ月の敵国を丸ごと「引き抜き放題の草刈り場」に変える、魔王軍史上もっとも静かで容赦のない進軍が始まる。