あらすじ
七年間、誰にも礼を言われなかった。
帳簿も、交渉の書状も、姉のドレス代の工面も。
男爵家の次女セレスタの仕事に、名前はつかない。
父は「家族だから当然だ」と繰り返す。
姉は信じている。妹は裏方が好きなのだと。
母の形見が姉の衣装代に消えた夜も、セレスタは泣かなかった。
帳簿の「雑費」欄に、形見の値段を自分の字で書いただけだ。
ある日、一人の男がその筆跡を見抜く。
辺境伯が差し出したのは、花束ではなかった。
妻の職務に正当な報酬を約束する、婚姻契約書。
セレスタは契約書に一行だけ書き足す。
実家への無償の援助は、行わない。
父はその一行を読み流した。
この家を七年間回してきたのが誰か、まだ知らないまま。