あらすじ
へい、らっしゃい、らっしゃい!
寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 読んで損はさせやせん、江戸一番の速報を売る瓦版屋だよ!
おっと、そこの旦那! 世間の噂に乗り遅れちゃあ、粋な江戸っ子とは言えやせんぜ!
今、この江戸八百八町を、いや、日の本中を揺るがす一番の話題はこれをおいて他にねえ!
【号外! 号外! 千住の先に地獄の門現る!】
さあさあ、聞いたことがあるかい?
去年のくれ、年の瀬も押し迫った頃合いよ。千住大橋を越えた先の、人もまばらな|骨ヶ原《こつがはら》のっぱらに、そいつは現れたんだ!
天を衝くかみてえな|大地震《おおない》が来たかと思やあ、地面がパックリ口を開けてよ、中からせり上がってきたのは、漆黒の鳥居! いや、ありゃ鳥居なんてもんじゃねえ! 見たもんが言うにゃあ、まるで夜そのものを固めて作ったような、気味の悪ぃ |幽世門《かくりよもん》 だって話よ!
門の向こうは、どっぷりと深い闇。時折、聞いたこともねえ獣の叫びが聞こえてくる。気味が悪くて誰も近寄らねえでいたんだが、そこはそれ、腕に覚えのあるお武家様や、怖いもの知らずの若ぇ衆が何人か、肝試しでのぞきに行ったんだ。
……帰ってきたもんは、ほとんどいねえ。
命からがら逃げ帰ったもんが言うにゃあ、門の先は石造りの奇妙な回廊が続いてて、そこには絵草子に出てくるみてえな |物の怪《もののけ》 がうじゃうじゃいやがる! 四つ目の狼! 鉄みてえな甲羅の亀! 人の言葉をあやつる化け狐! まったく、べらぼうめ! 地獄の釜の蓋でも開いたかってんだ!
こいつぁ一大事と、北町奉行所のお役人衆が駆けつけて、今じゃあ門の周りはぐるっと竹矢来で囲われて、見張りが立つ厳戒態勢よ!
だが、話はここで終わりじゃねえ! ここからが本番だ!
なんと、物の怪を討ち果たした屈強な若ぇ衆が、門の中から世にも奇妙な宝を持ち帰ったって噂だ! どんな傷でもたちどころに癒やす丸薬! 決して刃こぼれしねえ鉄の塊! 決して腐らねえ不思議な干し飯!
おまけによ、物の怪とやりあった連中の中にゃあ、にわかに不思議な |術《ちから》に目覚めちまった者もいるとかいねえとか! 手から火を出したり、矢よりも速く走ったり……!
さあ、どうだい!
この幽世門、こいつぁただの災いか? それとも、一攫千金の夢が転がってる宝の山か!?
|御上《おかみ》はこの門をどうするつもりなのか!
増え続ける物の怪に、江戸の町はどうなっちまうのか!
あんたの隣にいるただの豆腐屋が、明日には江戸一番の力持ちになってるかもしれねえ!
そんな時代の始まりを告げるこの一枚!
さあ買った買った! この瓦版、一枚たったの八文だよ!
新しい時代の幕開けを、懐にしまっときな! 安いもんだろう! へい、らっしゃい!