あらすじ
空から塵が降る世界、ルディア。
塵に触れた者は記憶を失い、肉体を灰に蝕まれ、やがて人の形を保てなくなる。人々は彼らを塵人と呼んだ。それは病の名ではない。呪いの名でもない。まだ生きている者を、人ではないものとして扱うための言葉だった。
辺境の村で生まれた少年アズべは、生まれながらに塵を宿していた。彼を産んだ母親はそのまま命を落とし、村人は石を投げ、司祭は名を記すことを拒んだ。アズべは人として生きることを許されず、死ぬことさえ許されないまま、塵降る土地で息をしていた。
だが彼には、聞こえていた。
塵の中に混じる声が。焼かれた子ども、忘れられた兵士、祈りの途中で死んだ女、名前を奪われた塵人たちの声が。彼らは救いを求めているのではない。ただ、自分が確かに生きていたことを、誰かに覚えていてほしかった。
ある夜、王都から来た〈焼律官〉が村を焼いた。
炎の中で人々は祈り、叫び、灰になった。アズべはそのすべてを聞いた。憎しみも、後悔も、塵となって彼の中へ流れ込んだ。
そして死者たちは、彼を呼んだ。
――王よ。
それは祝福ではなかった。呪いだった。
人間からは怪物と恐れられ、塵人からは最後の縋り先として追われ、死者たちからは王と呼ばれる少年。アズべは、弔われなかった者たちの塵を背負い、大陸の果てにあるという墓所へ向かう。
だが、弔いは救いではない。
塵は消えない。死者は眠らない。世界は彼らを忘れたのではなく、最初から存在しなかったことにしたのだ。
旅の果てでアズべが知るのは、神々の慈悲ではない。王国の罪でもない。世界そのものが、無数の死者を踏み固めて作られた墓であるという事実だった。
これは、世界を救う物語ではない。
死者に選ばれた少年が、人間であることを少しずつ失いながら、誰にも望まれなかった王冠を被るまでの葬送喪失譚である。