あらすじ
新緑が香る五月の大学講義室。
椥辻朔の隣に座る編入生・忌部暦は、息を呑むほど美しい、静かな彫刻のような少女だった。
しかし、彼女の美しさの裏には、どこか冷ややかな「違和感」が潜んでいた。
彼女は講義が始まると、シャープペンの芯(10Bから10H)を一分の狂いもなく机の上に整列させ、スマートな円柱形ペンケースを傾斜した木製天板の「角」、わずか一ミリの臨界点に直立させる。
エアコンの冷気、老教授の足音、学生たちの貧乏揺すり。
すべてのノイズを無視して、ミリ単位の平衡を保ち続けるペンケース。
朔の心臓は激しく波打つ。これは恋か、それとも野生の警告か。
水曜日。澱のように重みを増した空気の中、ついに物理法則が千切れる。
ふわりと傾いたペンケースは、斜め四十五度の角度で空間に固定され、カチカチと震え出す二〇数本の炭素の棒。
そして、暦の頸椎が滑らかに滑り、あり得ない角度で顔が真横に回転した。
「……見つかっちゃった」
耳を介さず頭蓋骨に響く湿った声と、ゼロ距離で暴かれる「極太マジックと白い絵の具、半乾きの石膏」で描かれた肉の仮面。
叫ぼうとした朔の喉は、凍える指先で優しく塞がれ、彼の世界は心地よく、ぐにゃりと歪み始める。