あらすじ
「泉に選ばれもしないお前が、結婚の儀に立つ資格はない。欠席しろ」
王城の神殿で、婚約者であるユリウス王太子から冷たく告げられた辺境伯令嬢アリシア。愛らしい新聖女ミレーヌに功績を横取りされ、貴族たちの好奇の視線に晒される――だが彼女は取り乱すことも縋ることもなく、ただ淡々と一礼した。
「かしこまりました。では、結婚の儀は欠席させていただきます」
アリシアの前世は、過労死した日本の社畜巫女。理不尽な上司に手柄を奪われ、責任だけ押しつけられる感覚は、前世で嫌というほど味わったもの。喚くつもりはない。ただ――記録は、残す。
毎晩ひとりで『星降る泉』の結界を維持してきたのは、他ならぬ彼女だった。誰が、何を、いつ、どれだけやったか。地味に積み重ねた日誌には、この国の誰も見ていない真実が全て記されている。
引き継ぎ書を祭壇に置き、静かに王都を発つアリシア。その静かな退場が、この国の運命を終わらせる引き金であることを、まだ誰も知らない。
辺境へ向かう街道で彼女を待っていたのは、金の竜眼を持つ寂しがり屋の将軍・ガレン。かつて彼女の地味な記録を『価値がある』と、たった一言で認めてくれた人。
放置された結界がどうなるか。彼らはこれから知ることになる――そして星が、本物の巫女を証明する。
記録魔の巫女と、寡黙な竜人将軍。守りたいものを守れる場所で始まる、静かで満ち足りた第二の人生の物語。