あらすじ
大人になるまでの猶予じゃない。
生きていくための、遠回りだった。
名古屋大学には届かなかった。
それでも綾瀬翔は、高校から持ち出したひとつの問いとともに、北山大学理工学部へ進学する。
「音が、どう届くのか。」
知らない駅。
急な坂道。
初めて組む時間割。
名前も知らない同級生たち。
高校までの人間関係も、吹奏楽部で過ごした時間も、晴音との曖昧な関係も、大学へ入れば自然に次の形へ進むのだと思っていた。
けれど、大人になるための答えは、講義室にも教科書にも書かれていなかった。
軽音サークルで音を鳴らし、アルバイトで怒られ、夜の街で酒を覚え、知らない土地を歩く。
晴音と笑い、すれ違い、ときには恋人のように隣を歩きながら、それでも二人の関係には、うまく名前がつかない。
単位。
卒業論文。
就職活動。
将来。
何者かにならなければならない時間が近づくほど、翔は、自分が何になりたかったのか分からなくなっていく。
それでも、無駄だった日はひとつもなかった。
うまくいかなかった仕事も、完成しなかった曲も、くだらない会話も、遠回りした旅も、言えなかった言葉も。
そのすべてが、やがて社会へ出た翔を支え、同時に縛っていく。
これは、何者にもなれないまま過ぎていく四年間を、それでも青春と呼ぼうとした物語。
『Letter II ~モラトリアム讃歌~』
終わったはずの春は、まだ旅の途中だった。
大学生活/青春/恋愛/音楽/旅行・紀行/アルバイト/就職活動/人生やり直し