あらすじ
人類は、負け続けていた。
魔王軍との総力戦は劣勢を極め、前線の砦は次々と陥落。各国が総力を挙げてなお、戦線は後退を続けるばかり。人々の口にのぼる最後の希望は、ただ一つ──いまだ見つからぬ「本物の勇者の聖印」の持ち主だけだった。
辺境の魔道具店を営む青年カインには秘密があった。五年前に拾い、実の妹として育ててきた、たった一人の家族。まだ十一歳のリアは勇者の聖印を宿していた。
聖印の存在が知られれば、妹は国に取り上げられ、絶望的な戦場の最前線へ送られる。あの子の日常を、笑顔を、誰にも奪わせはしない。ならば、方法は一つしかなかった。
──俺が、勇者になればいい。
だがカインには、聖印がない。あるのは、あらゆる魔力を見通す右眼と、そして幾重にも張り巡らせた仕込みだけ。聖印の真贋を暴く「識別の儀」を欺き、歴代最強と謳われる国王の値踏みを凌ぎ、聖女や各国の精鋭が集う勇者部隊の中心で、一分の隙もない英雄を演じ続けなければならない。
しかも、勇者発見の報は瞬く間に大陸中を駆け巡り、彼は滅亡寸前の人類にとって「最後の希望」そのものとなった。もはや後戻りはできない。偽りが一つでも露見すれば、待つのは国家を欺いた大罪人としての破滅──妹もろとも、全てを失う。
印なき偽物が、印持ちの怪物たちがひしめく戦場で、知恵と嘘だけを武器に人類の命運を背負う。
これは、偽物の勇者が本物の英雄よりも重いものを背負う物語。嘘から始まった兄妹の、家族の物語。