あらすじ
山梨県の山奥にある限界集落・御神沢村。
大学生の相沢蓮は、祖父・相沢源蔵の突然の死をきっかけに、十年ぶりに故郷へ戻る。しかし村には異様な静けさが漂い、住民たちは日が暮れる前に戸を閉ざし、誰も山へ近づこうとはしなかった。
祖父の遺品を整理していた蓮は、一冊の古い日記を見つける。そこには「夜に戸を叩くものを開けるな」「熊には背を向けるな」「あれは人の声を真似る」と、不気味な警告が残されていた。
その夜、蓮の家の戸を叩いたのは、一頭の巨大な熊だった。
熊は人間のように二本足で立ち、死んだ人間の声を使って戸を開けさせようとする。しかも、その熊は笑っていた。
村の駐在・黒木静に助けられた蓮は、御神沢村に代々伝わる恐るべき秘密を知る。
かつて村では、「熊送り」と呼ばれる禁断の儀式が行われていた。山の神の怒りを鎮めるため、毎年一人の人間を生贄として山へ捧げていたのである。しかし五十年前、蓮の祖父・源蔵がその儀式に反対し、妹・志乃を連れて逃げ出したことで儀式は途絶えた。
その日を境に、村では人喰い熊による惨劇が始まった。
だが、村人たちが恐れていたのは熊ではなかった。
山そのものが、生きていた。
長い年月、人間を喰い続けた山は、一頭の熊を器として無数の命を取り込み続けていた。熊の腹の中には、喰われた人々の魂が蠢き、死者の声を真似て新たな獲物を誘い込む。そして山の奥深くには、すべてを飲み込む巨大な「穴」が口を開けていた。
その穴を封じる鍵は、相沢家に流れる血。
祖父が果たせなかった使命は、孫である蓮へ受け継がれていた。
逃げれば村は滅びる。
立ち向かえば、自分も山に喰われる。
愛する者を守るため、そして五十年前から続く呪いを終わらせるため、蓮は人喰い熊と山の神へ最後の戦いを挑む。
果たして山を封じることはできるのか。
それとも、人類は「山が本当に喰っていたもの」の正体を知ることになるのか──。