あらすじ
辺境の貧乏貴族家、グラナート家は毎年赤字だった。山と森と湿地に囲まれ、農地は少なく、冬は長い。街道から外れているため商業は育たず、魔物が多すぎるせいで開拓も進まない。父ガルドは戦えば強いが金勘定に弱く、母ミレイアは商売に強いが、領地に売るものがなければどうにもならない。
そんな家に生まれたリオル・グラナートには、現代日本人だった記憶があった。剣の腕は父や兄ほどではない。貴族らしい社交も得意ではない。だが彼には、ほかの者には見えないものが見えていた。
魔物の胃液は革なめしに使える。
スライムの粘液は泥水を澄ませる凝集剤になる。
毒袋は防虫香に変えられる。
骨と糞と灰は痩せた畑を肥やす。
この世界の人々が「危険な獣」「討伐対象」「肉と皮を取るもの」と見ていた魔物を、リオルだけは素材と性質で見ていた。価値がないと思われていたものには、まだ値段がついていないだけだった。
最初の商品は、臭く、ぬるぬるし、名前も最悪だった。家族には呆れられ、使用人には逃げられ、母には帳簿を突きつけられる。それでも濁った水は澄んだ。底には汚泥が残った。革は柔らかくなった。痩せた土は少しずつ黒くなった。
やがてリオルは、避暑地へ向かう途中で魔物に襲われた辺境伯令嬢セリカ・フォン・アルヴェインと出会う。勝ち気で口が減らず、主人公の命名センスを容赦なく切り捨てる彼女は、リオルの発想を貴族社会に通用する商品と制度へ変えていく。
父は魔物を狩る。
母は商品として売る。
兄弟姉妹は現場を支える。
セリカは社会に認めさせる。
リオルは、誰も価値を見出さなかった魔物に、領地を救う可能性を見る。
これは、魔物の素材から始まる辺境産業革命である。