あらすじ
演劇部の三年生・悠真は、文化祭準備の放課後、後輩の環と二人きりで部室に残る。雨の降り続く中、部員たちは皆、悠真の存在を気に留めることなく帰っていくが、本人はそれを不自然に思わず、これまで通りの日常として受け入れていた。しかし環だけは、悠真に向けて静かに語りかける。彼女は一年以上前、入学直後に体育館裏で倒れていた悠真を目撃しながら、恐怖から誰も呼ばず立ち去った過去を打ち明ける。そして悠真はその時すでに命を落としており、以来、自分が死んだことに気づかないまま部室に留まり、同じ日常を繰り返していたのだと告げる。周囲の誰もが悠真を認識できない中、環だけがその存在を見続けてきた。
最初は否定する悠真だったが、窓に自分の姿が映らないことや曖昧な記憶の綻びから、やがて真実を理解する。封じ込められていた最期の記憶が蘇り、誰にも気づかれず孤独のうちに死んだ現実を受け入れる。環は長いあいだ罪悪感に苦しみながらも、ようやく真実を伝えられたことに涙する。悠真は彼女を責めることなく、むしろ見守り続けてくれたことに感謝を告げる。やがて彼の存在は次第に薄れ、部室から静かに消えていく。
その後、悠真の不在に気づく者は誰もいない。部は何事もなかったかのように活動を続け、主役も別の生徒に引き継がれる。ただ一人、環だけが彼の存在を記憶し、手帳にその思いを書き残す。雨の音だけが変わらず降り続く中、忘れられた存在と、それを覚え続ける者の静かな祈りが残される。