あらすじ
雨の降る夜、茉里は恋人・隼人のマンションでいつものように食事をしていた。穏やかな時間のはずなのに、ここ最近、二人の記憶が微妙に食い違うことや、友人との関係が薄れていることに、茉里は言葉にできない違和感を抱いていた。
やがて隼人は重い口を開き、二年前、別れを切り出したのは茉里の方だったと告げる。しかし彼はそれを受け入れられず、会社の記憶編集技術を違法に使い、別れの記憶を消し去り、「交際が続いている」という偽りの現実を作り上げていたのだった。さらに辻褄を合わせるため、関連する記憶や交友関係にまで手を加え続け、茉里の二年間は知らぬ間に書き換えられていた。
罪悪感に耐えきれなくなった隼人はすべてを告白し、記憶を元に戻すための同意書を差し出す。混乱と恐怖の中で茉里はそれに署名し、専門機関で処置を受ける。失われていた記憶が蘇ると同時に、二年前の雨の夜、自らの意志で隼人との別れを決断した確かな感情も鮮明に戻ってくる。優しさに満ちていたはずの二年間は、自分の意思とは無関係に作られた虚構だったと知り、茉里は深い喪失と複雑な痛みを抱える。
すべてを認めた隼人は罪を償うため去り、二人の関係はようやく本来の形に戻る。茉里は空白となった時間と向き合いながらも、他者に奪われた選択を取り戻し、自分自身の意思で生きていくことを静かに選び直す。雨音の中で、過去と決別し、新たな一歩を踏み出すのだった。