あらすじ
人は素手では魔獣に勝てない。だからこの大陸では、どんな魔獣と絆を結んでいるかが、そのまま身分になる。良い血統は貴族が独占し、平民に回されるのは「くず獣」と嗤われる余り物だけ。契約は生涯に一度、一体きり。引き直しはきかない。
辺境の平民に生まれ変わったロイが、成人の儀で引き当てたのは――大陸最弱と査定される小さな獣、アナホリ一体だった。掘って、跳ねて、物を運んで、怯えて啼く。それだけの獣。周りは腹を抱えて嗤った。
けれどロイの前世は、どんな動物の問題行動も「種の習性」と「学習の履歴」だけで説明してみせた、動物行動の専門家だった。魂も血統も、彼は信じない。
「血は変えられない。だが癖は、今日から書き換えられる」
撫でることを見返りと呼び、初対面で相手の獣の躾けの粗を無遠慮に言い当てる。少し嫌な感じの理屈屋。だが彼の設計だけが、獣を一度も壊さず、一度も使い捨てない。同じ笛が文脈しだいで真逆の動きになる合図、素朴な行動を鎖で繋ぐ連携、敵の獣をわざと焦れさせて自滅させる誘導――技はどれも地味で、敵に何度でも読まれている。それでも、勝つ。
やがてロイは、良い獣を「危険」と偽って没収する獣務院の不正を、獣自身の体に刻まれた学習の履歴を証拠に、公開の場で覆していく。処分される寸前の命を一頭また一頭と背負い込み、賭け金は金ではなく「救う命の頭数」で吊り上がっていく。
行く手に立つのは、大陸最高血統の聖獣を従える若き聖獣騎士シオン。彼もまた、心から民を守ろうとしている。そして大陸の底では、人類がまだ一体も追えていない災害級の獣《原獣》が、痕跡だけを残して蠢いている。
最弱の一体と、しつけの理屈ひとつ。血統がすべての国で、成り上がりが始まる。