あらすじ
これは、たった1つの卵焼きから始まった、
駅構内群像コメディ。
1994年、午前8時前の新名古屋駅。
まだスマホもなく、待ち合わせに遅れたら
公衆電話を探し、会えなければ相手が待って
いてくれることを信じるしかなかった時代。
名鉄新名古屋駅の売店《めいてつ小町》で、
勤務5日目の舟橋千代子は、2つの弁当を
取り違えてしまう。
病院へ向かう男が受け取ったのは、就職面接へ
向かう女性の手作り弁当。
面接へ向かう女性が受け取ったのは、男性が
買った駅弁と――なぜか病院の紹介状。
母が作った卵焼き。
父と息子の間に残った沈黙。
履歴書。
紹介状。
ナナちゃん前の待ち合わせメモ。
きしめん。
大須の赤いジャケット。
そして、まだ真面目だった若き日の笹川玲二。
たった1つの取り違えが、新名古屋駅から
名古屋の街へ広がり、出会わない人たちの
人生を少しずつ動かしていく。
彼らは、名前さえ知らない。
それでも、誰かが何気なく渡したものは、
知らない誰かへ届いていく。
笑えて、濃くて、最後に少しだけ泣ける。
『新名古屋駅、午前八時の味噌かつ事件』へと
つながる、10年前の物語。
有賀 斗真