あらすじ

『歪神の孵化する夜』概略 民俗学を専攻する大学院生・榛名陸(はるなりく)は、山あいの孤立した「旧木守(こもり)集落」に伝わる独自の盆踊りを調査するため、現地を訪れていた。しかしそこで目にしたのは、古文書の記述とはかけ離れた、異様な太鼓のリズム「ドンジャラ……ドン……」に合わせて狂気的に踊り狂う村人たちの姿だった。その夜を境に、陸の脳内には不気味な拍動と「殺せ」という幻聴が巣食い、彼の自我を内側から侵食し始める。 一ヶ月後、吸い寄せられるように集落へ戻った陸は、夏の終わりを告げる花火大会で恐るべき光景を目撃する。打ち上がる花火の爆音と光がトリガーとなり、人々の脳内に潜伏していたリズムが「孵化」。次々と人間たちが悍ましい怪物へと変貌を遂げたのだ。彼らは山奥の廃村に「異形の部落」を築き、人間を喰らい、洗脳し、仲間を増やすおぞましい生態系を確立していた。 やがて怪物たちの魔の手は都市部へと伸び、数十万人が集まる「湾岸大花火大会」の音響ジャックが計画される。陸自身の肉体にも怪物の変貌(紫色の斑点)が現れ始める中、彼はかつて集落から命がけで盗み出した、怪物のリズムを封じるための「古来の祝詞(神楽の檻)」が録音されたカセットテープを手に、破滅へと向かう東京湾臨海部へと奔る。 音響タワーの最上部で怪物と死闘を繰り広げ、自らの肉体が侵食されゆく極限状態の中、陸は機材にテープの導線を直接突き刺し、ボリュームを最大に引き上げた。黄金の花火が夜空を焦がす中、響き渡る神聖な祝詞の音は怪物の肉体を焼き、人々の狂気を打ち砕く。見事、世界の崩壊を食い止めたかに見えた。 しかし、静まり返った河岸で一人佇む陸の耳に、遥か対岸の闇から再びあの粘り気のある低音が聞こえてくる。そして彼の胸の鼓動もまた、その音と同調して脈打ち始めるのだった。世界中に点在する新たな「部落」の存在と、自身の体内に残り続ける呪縛。人類の存亡をかけた、陸の終わらない闘いの幕が上がる。

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エブリスタ
エブリスタ2026/07/10
  • 現在の作品『歪神の孵化する夜(わがみのふかするよる)』