あらすじ
シャッターを切るたび、私たちは「永遠」に近づいていく――。失われゆく町と、三人の少女たちが紡ぐひと夏の青春群像劇。
「このきらきらした時間が、明日には消えてしまうんじゃないか」
初夏の潮風が吹く海沿いの町、潮見町(しおみちょう)。
駅前の古い駄菓子屋が取り壊されたあの日、高校2年生の逢坂つむぎは、当たり前の景色が上書きされていくことに名付けようのない焦燥感を覚えた。
彼女は、父親譲りの古いフィルムカメラを首に提げ、ひとつの決意をする。
「夏休みが終わるまでに、失われる景色や愛おしい『今』を全部集めて、世界に一冊だけの『思い出の本』を作ろう」
巻き込んだのは、孤独を抱えながらも優しい言葉を紡ぐ親友・久我峰夕那葉。
そして、退屈な日常を変えたいと密かに願っていた神社の娘・伏見朱音。
『思い出部』として集まった三人の少女は、ファインダー越しにこの町の景色を、そしてお互いの眩しい時間を焼き付けていく。
灯台から見下ろす朝焼け、雨の匂いがする神社の茅の輪、願いを隠した七夕祭り、そして大自然の中でのキャンプ。
しかし、永遠に続くと思われた青い時間の中で、夕那葉だけは誰にも言えない「タイムリミット」を抱えていて――。
巻き戻せない「時間(フィルム)」の美しさと、失われゆく「今」を全力で肯定する。
不器用で真っ直ぐな少女たちが、確かな『轍(わだち)』を刻んでいく、ノスタルジックな青春ストーリー。
登場人物紹介
■ 逢坂 つむぎ(おうさか つむぎ)
本作の主人公。高校2年生。「思い出部」部長(写真担当)。
サイドアップのボブヘアと、黄色のリボンがトレードマーク。父親譲りの無骨で傷だらけの古いフィルムカメラをいつも首から提げている。直感的で行動力に溢れ、最高の一枚を撮るためなら多少の無茶も厭わない。日常が消えていく焦燥感から「思い出部」を発足させた、三人の太陽のような存在。
■ 久我峰 夕那葉(くがみね ゆなは)
つむぎの親友。高校2年生。「思い出部」副部長(文章担当)。
ベージュ色の緩やかなウェーブヘアに眼鏡、黒い大きなリボンが特徴。市議会議員の父を持つ。読書好きで、つむぎの写真に情緒的な言葉を吹き込む。1年生の時に周囲に馴染めず深い孤独を抱えていたが、つむぎに救われたことで重すぎるほどの感謝を抱いている。その裏に、物語の根幹に関わる「秘密(タイムリミット)」を隠している。
■ 伏見 朱音(ふしみ あかね)
伏見神社の娘。高校2年生。「思い出部」案内人(兼 監視役)。
位置が高めのポニーテールと、印象的な赤い髪、切れ長で気高き瞳を持つ。卒業後は神職の資格を取るため専門の大学へ進学予定。神社の変わらない日常を「退屈な予定調和」と感じていたが、必死に「今」を繋ぎ止めようとするつむぎたちに興味を抱き、トラブル防止の監視役という名目で入部する。根は優しく、仲間思いな一面を持つ。
■ シノハラさん
町の古い電気屋・写真屋「シノハラ写真堂」の店主。
ぶっきらぼうな性格だが、つむぎのカメラの手入れ具合を見て「大切にされている良いカメラ」と見抜く。フィルムには「デジタルには真似できない温度が写る」と語り、変わりゆく町を寂しく思いながらも、少女たちの活動を大人の視点から温かく見守る理解者。つむぎの父親のカメラの師匠でもある。