あらすじ
ドルフが賭けると、賽はいつも申し訳なさそうに「一」を出す。
港町ガレナの賭場に入り浸り、二十年間、一度も勝ったことがない中年男。
昼から酒を飲み、ツケを溜め、誰からも「負け犬」と笑われる。
だが、彼の敗北には理由があった。
ドルフは本気で負けるたび、その不運を『納札』へ貯めている。
そして毎日、その札を燃やしていた。
十年前の惨劇で家族を失い、世界の帳簿からこぼれ落ちた少女――リコが、今日も同じ椅子に座っていられるように。
負ければ、娘の明日を買える。
勝てば、彼女が消える。
だからドルフは今日も笑われながら負け続ける。
しかしある日、配剤教会の異端審問官カリナが街を訪れ、二十年間続く「あり得ない全敗記録」に気づく。
さらに旧鉱山の崩落。
教会本山による異常な運の吸い上げ。
薄くなっていくリコの影。
そして暴かれる、ドルフの正体。
二十年前。
たった一人で星を落とし、大戦を終わらせた伝説の英雄――『星堕とし』。
かつて世界を救った男は、もう世界のためには戦わない。
「子どもの椅子を薪にするな」
百人を救うために一人を切り捨てろと迫る“正しい”教会を敵に回し、
負け続けたおじさんは、拾った娘のたった一つの席を守る。
これは、誰よりも強い男が勝つ物語ではない。
一人の子供を見捨てないために、
今日も負けを選び続ける男の物語。