あらすじ

「お嬢さん、ここは夜風が冷えます」 月を仰ぐ討伐対象に、一体のホムンクルスは外套を差し出し、死地に咲いた花を支えるように、静かに抱き上げた。 王都グロウクレストの外れ、イトスギに覆われた丘に広がるサイプレスヒル墓地に、死者の眠りを守る一人の墓守がいた。 ロア・エリアス・サイプレス。青年期を持たずに造られた、四十代半ばの姿のホムンクルスである。 月のきれいな夜、一つの墓が内側から割れた。土から這い出た者の名は、リュディア・ヴァン・ローゼンシュタイン。百二十年ぶりに葬られ、屍花の魔女と畏れられた女である。 墓守小屋へ迎えられたリュディアは、ロアの手で墓土を落とされ、弔いの紅である芦紅を唇に差され、もう一度この世に咲き直す。 「礼を言うでない。寂しくなる」 彼女は気づいてしまう。何十年も、返事のない死者を相手に弔いの手を尽くしてきた墓守の孤独に。 「停止後、歯車は主の墓へ」 サイプレスヒルには、さまざまな終わりが訪れる。 摩耗した身体でなお主の墓へ花を運び、自らの停止後を選ぶホムンクルス。朽ちぬまま、死してもなお誰かの祭壇にされてしまう聖女。大蟲に喰われた冒険者。 「花のほうがよほど死に上手ではないか」  名のある者は、其名のもとへ  名のなき者は、形見のもとへ  物質なき者は、残響のもとへ 一方でリュディアは、弔いに支障がなければよいと自らを扱うロアへ告げる。 「お前は、自分を手間をかけられるべき身体だとは見ておらぬな」 死者を手入れしてきた墓守は、屍花の魔女に手入れされる。手折るものは花から死者の記憶へ、やがて英雄譚と王政の終わりへ広がっていく。 墓守は職分の外でも熱く炉を燃やした。 「おっちゃん、今入っていい状況?」 墓守が死者の名を弔い、屍花の魔女が通った地には花が咲く。終われぬ者たちへ所在を与えていく弔い幻想譚。

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カクヨム
カクヨム2026/07/10
  • 現在の作品死地に咲く一輪を手折る墓守の話