あらすじ
「お前の砂糖菓子など不要だ」
縁結びの儀式、その荘厳な壇上で。王太子アルベルトは民衆の前で、そう言い放った。「愛のない儀式など、時代遅れだろう?」と勝ち誇る彼の隣には、男爵令嬢ミレーユ。けれど——聖女セレナにしか視えない『縁の糸』は、二人の間に一本も渡っていなかった。
前世は報われず過労で倒れたパティシエ。転生して得たのは『糖化魔法』のスキルと、製菓知識。その二つを掛け合わせて焼く砂糖菓子だけが、この国の縁結びの加護を宿す。加護なき婚姻は、縁が濁り、数年で不和・破談へ——それは神託レベルの事実。だがそれを「迷信」と切り捨てたのは、王太子自身だった。
セレナは喚きも泣きもしない。ただ静かに菓子を箱にしまい、こう告げる。「菓子は、嘘をつきませんので。いずれ、それだけが真実になります」
聖女も、この国も辞めさせていただきます。菓子の型さえあれば、どこでだって焼ける。
神殿の外で待っていたのは、以前から縁結び菓子を熱望していた隣国ヴェルンの馬車。そして降りてきたのは、銀灰色の髪に紫紺の瞳を持つ、氷像のような美貌の青年——。
唯一の担い手が去ったこの国の、全ての結婚は果たしてどうなるのか。そして、亡命先で新しく焼き上がる菓子に視える金色の糸の予兆とは。
報われなかった前世の自分へ。今度こそ、自分の居場所で、自分の菓子を焼く。
【短編・ざまぁあり・完結】