あらすじ
老女王エリザは、不老不死の杯を前に、静かに首を横へ振った。
死にたいわけではない。明日の朝も、その次の朝も見たい。けれど、終わりのない体になることを望んではいない。
母を失う恐怖から杯を迫る王太子エドガー。奇跡で救えなければ自分には価値がないと涙する聖女。誰もが女王を愛しているのに、その愛の声が大きくなるほど、寝台の女王の声だけが小さくなっていく。
前世が緩和ケア看護師だった看護係リナは、胸元を握る指、浅い呼吸、乾いた唇に気づく。秘薬を選ばなくても、痛みを小さくし、息を整え、会いたい人と言葉を交わす時間は守れる。
永遠を差し出す金の杯と、今を支える白い水差し。
治せない夜の中で、リナは女王の「今日」を守れるのか。窓の向こうに朝がほどけるとき、母と息子の間に、怒鳴り声ではない言葉が戻ってくる。