あらすじ
1986年4月26日、午前1時23分。
チェルノブイリで、妹が死んだ。21歳だった。
被曝で剥がれ落ちる皮膚の下で、彼女は最期に言った。
――「事故じゃない。あれは、誰かにやられた」
兄・レフ・シャポシニコフはKGBに入局する。妹の最期の言葉を、世界の真実にするために。
しかし4年後、モスクワ・ルビャンカの地下3階で、彼は自らの手で証明してしまう。
犯人は、存在しない。
チェルノブイリは、ただの事故だった。
妹の最期の言葉は、被曝と恐怖が作った幻だった。
真実は、妹を救わなかった。
ならば、真実に義理はない。
「私は数学者だ。証拠が存在しないなら、証拠に見えるものを配置すればいい」
金属プレートの英語刻印。オープンリールに埋め込まれた偽の作戦名――"Scorched Earth"。クウェート経由の資金移動。実在しないCIAの陰謀を、実在するように"設計"する。すべては、たった一つの精巧な嘘のために。
舞台は、1990年10月のワシントン。
湾岸戦争開戦に向けて、アメリカもまた"少女ナイラ"という嘘の証人を用意していた。
彼が利用したのは、その15歳の少女。
――これは、真実を捨てた男が、17年後、白い花の下で、ようやく人間に還る物語。
妹が愛したジャスミンの香りを、彼は名前ごと忘れた。
世界を欺いた男が、たった一つ思い出せなかったもの。
それが、"白い花の設計図"だった。
冷戦末期、数学者が設計した"存在しない陰謀"が、無実のアメリカ大統領を追い詰め、一人の若い兵士の指先を止め、そして――17年後のクウェートの海で、一輪のジャスミンとして帰結する。
頭脳戦、騙し合い、贖罪、そしてただ一つの後悔。
重厚な倒叙型スパイ・ミステリーを、どうぞ。