あらすじ
「アグネス。お前との婚姻は今日で終わりだ。ただちにこの屋敷から出て行け」
没落寸前の実家を救う対価として、豊かな領地を治める伯爵家に嫁いだアグネス。
彼女は妻として愛されることを最初から望まず、ただひたすらに完璧な財務と物流の差配をこなし、陰から領地を支え続けていた。
しかし、顔だけは良いが見栄っ張りで無能な夫クロードは、彼女を「地味で退屈な事務官」と切り捨て、華やかな令嬢を新妻に迎えるために一方的な離縁を突きつける。
アグネスは一切取り乱すことなく、淡々とそれを受け入れた。
自分が屋敷を去れば、領地の経済が数ヶ月でどう崩壊するかを、頭の中の完璧な計算式で弾き出しながら。
身一つで追い出され、これからの身の振りを考えていたアグネス。
だが、そんな彼女の前に一台の馬車が静かに停まる。
「偶然お迎えに上がったなどという、都合の良い三流のおとぎ話ではございません」
声を掛けてきたのは、過酷な北の国境を護る『鉄血の防人』こと、ユリウス辺境伯の筆頭執事だった。
ユリウスは、クロードの領地から届く神業のような物流の帳簿の裏に、極めて優秀な「名もなき事務官」が隠れていることを見抜いていたのだ。
「我が領地は、君のその手腕を是が非でも必要としている。どうか、力を貸してほしい」
アグネスの積み上げてきた実務能力、そして彼女という人間そのものを誰よりも高く評価し、不器用ながらも深い愛情を注いでくれるユリウス。
彼のもとで、アグネスは水を得た魚のようにその才覚を発揮し、厳しい辺境の地を豊かに導いていく。
一方、領地を支えていた『見えない防壁』を自らえぐり出した元夫たちは、瞬く間に無能さを露呈し、取り返しのつかない自滅への道を転がり落ちていき――。
これは、愛想のない実務主義の事務官令嬢が、自分を心から認めてくれる不器用な辺境伯の隣で、本当の「美しさ」と「温かな居場所」を手に入れるまでの物語。